面接で必要な日本語と、仕事で必要な日本語はつながっている
1.なぜ「日本語力」が足りないと、面接で合格できないのか?
「そんなの当たり前でしょう」と言う留学生の声が聞こえてきそうですね。実際に、私たちASIA Linkが留学生の就職支援をしている中でも、「日本語力」が原因で面接に合格できないというケースは非常に多いです。
でも、それがなぜなのか?深く考えたことはありますか?
「日本語力」が足りないと、面接の中で大きな問題が2つ起こってしまうからです。まずは、その2つの問題を知ることから始めましょう。
①「相手を知る」という面接の第一の目的が果たせないから
日本語力が足りないと、面接の中で以下のようなことが起こります。
*面接官が、あなたについて知りたい内容を知ることができない。
*あなたのことが面接官に伝わらない。
*面接官が疲れてしまう。
*面接官が「この留学生はうちの会社に合っているのか?」という判断ができない。
②入社後の活躍・成長がイメージできない
上記①の結果、面接官はあなたについて以下のように考えます。そして、あなたが入社したとしてもその後の活躍・成長がイメージできないと考えてしまいます。
*日本語力だけでなく、そもそもの能力が低い可能性がある。
*入社後の育成に労力・時間・コストがかかる。
*入社後の他の社員との関係性に不安がある。
*日本企業で働きたいと言いながら、日本語力向上の努力を怠っている、意欲が低い人である。
つまり、面接での「日本語力」は、情報のやり取りに必要なだけではなく、能力・意欲の評価にも大きな影響を与えるのです。
2.面接での日本語に必要な、5つのポイント
面接でなぜ「日本語力」が必要なのか。具体的にお分かりいただけたと思います。
では、「日本語力」といっても、どのような日本語力が必要なのでしょうか?ここでは、面接合格のための日本語に必要な、5つのポイントを説明します。この5つは、就職して仕事をする上でも必要な能力です。
①語彙力
「この業界に入りたい」「この仕事をしたい」なら、知っておいて欲しい日本語の語彙があります。
たとえば、「商社に入りたい」と言いながら「総合商社・専門商社」という語彙を知らなかったり、「営業がやりたい」と言いながら、「法人営業」という語彙を知らなかったり。このように、業界・職種の基本的な語彙を知らないと、面接の中で必要な情報のやり取りができないだけでなく、
「本当にこの業界・仕事に興味があるのですか?」
「入社後いろいろ教えていくのに時間がかかりそうだなあ…」
と、面接官に思われてしまいます。
また、大学や専門学校で勉強している内容を、日本語で詳しく説明できない留学生も多いです。そうすると、面接官には
「本当にその勉強をやったのですか?」
「あまり授業の内容を理解できていなかったのでは?」
と思われてしまいます。
受けたい業界・職種については、日本語で何と言うのか、語彙・用語を調べて準備しておきましょう。そして、大学や専門学校の成績証明書にのっている主要な科目名は、日本語で言えるようにしておきましょう。
②発音・イントネーション
上記の語彙をしっかり覚えても、面接官に「聞き取って」もらえなければ伝わりません。発音・イントネーションは、語彙と同じくらい重要です。例えば、実際の面接で以下のようなケースがありました。
面接官「どんな仕事内容を希望していますか?」
留学生「キカセケです」
面接官「え?すみません、もう一度言ってくれますか?」
留学生「キカセケです」
このやり取りでは、留学生は「機械設計」と言っているのですが、面接官には最後まで「キカセケ」としか聞こえず、コミュニケーションが成立しませんでした。
もちろん、面接官も何度か聞きなおしてくれますが、あまり聞き取りにくいと、面接官も疲れてモチベーションが下がってきます。また、重大な聞き間違いや、誤解が生じる場合もあります。面接のやり取りの中でポイントとなる語彙・用語や、ぜひ伝えたい内容については、発音・イントネーションも含めて練習することが大切です。
③知っている語彙・表現で何とか伝える力
上記の①と②を読んで、心配になってきた留学生も多いのではないでしょうか。語彙も、発音・イントネーションも、急に上達することは難しいですし、面接でのやり取りを100%想定した準備も難しいですよね。文法・表現の不足にも不安があるでしょう。
でも、大丈夫です。面接で相手にうまく伝わらないとき、「知っている語彙・表現で何とか伝える力」があれば、乗り越えられることも多いのです。みなさん、日本語が初級だったころを思い出してください。街の中で困ったとき、何とか持っている語彙・表現のすべてを使って、伝えようとしましたよね。初級レベルの語彙・表現しか知らなかったとしても、伝えられることは意外にたくさんあるのです。
例えば、母国で仕事の経験がある留学生が、面接官にその仕事内容を質問されました。留学生は「電子回路の故障の原因調査と改善の仕事です」と言いたかったのですが、難しい語彙がわかりませんでした。そこで、以下のように答えました。
「電子回路が壊れてしまったら、どうして壊れたか調べます。そして、次は壊れないように考えます。これが私の仕事でした。」これで無事に、面接官に内容が伝わったのです。
「何とか相手に伝えようとする力」。これは、人と人とのコミュニケーションの中で、実は本質的な非常に重要な力です。さらに、難しい語彙・表現や専門用語を使わずに、基本的な語彙・表現で話すということは、簡単なように見えて、実は自分自身で内容をきちんと理解していないとできないことなのです。知っている語彙・表現で何とか伝えることで、面接官に内容が伝わるだけでなく、「内容をきちんと理解した上で話している」ということも伝わる、という二重のメリットもあるのです。
④論理的に話す力
語彙や発音・イントネーションに問題がなくても、
*結局何が言いたいのか伝わらない
*結論までに長い時間がかかる
*重要なポイントが何かが伝わらない
というケースがあります。これは、「論理的に整理して話すこと」ができていないためです。
面接の中で面接官は、初めて会うあなたから、初めて聞く話を、耳だけで聞いて理解することになります。これがかなり難しいことであることは、みなさんも想像できると思います。そのため、「面接官の頭の中を整理してあげるようなイメージ」で話すことが重要です。
例えば、面接官の質問に対して、以下の3つのステップで話す方法があります。
面接官「あなたはどのような仕事を希望していますか?」
⇒①結論から言う「私が希望する仕事は〇〇です」
⇒②理由・根拠を整理して展開する「理由は3点あります。まず1点目は・・・」
⇒③結論に戻ってまとめる
面接官の頭の中が整理されていく様子がイメージできると思います。これが論理的な話し方の一つの例です。
この論理的な話し方は、自分が話す内容を面接官にしっかり理解してもらえるというメリットがあるだけでなく、自分に「論理的思考力」があることもアピールすることができます。実際に面接官も、「論理的に話す人」=「論理的思考力がある人」と判断する傾向があります。そして、この「論理的に話す力」は、入社後も非常に重要になります。社内で上司に自分の意見を伝えるときや、顧客へのプレゼンテーションなど、様々な場面でみなさんはそれを実感することになるでしょう。
⑤会話のキャッチボール力
面接は「会話」です。当たり前のようですが、意外にこのことを忘れてしまいがちです。そして、面接の中でこの「会話」ができないと、合格も難しくなります。
「会話」とは、
*適切な長さ・内容の話のまとまりを作って、相手に渡す。
*相手を見て、相手の様子や意図を推し量りながら話す。
つまり、キャッチボールですよね。
普段の会話なら、このキャッチボールが無意識にできるのに、面接になると難しくなります。よくある失敗に以下のようなケースがあります。
× 学生が一方的にしゃべり続け、面接官が言葉をはさむ間がない。
× 学生が、面接官が聞きたい内容の背景まで含めて回答しないため、面接官は何度も質問を重ねなければならない。
一つ目は、非常に多い失敗例です。
二つ目の、「面接官が聞きたい内容の背景まで含めて回答しない」という失敗については、以下に例をご紹介しましょう。
<面接官の質問の背景を理解していない例>
面接官「今住んでいるのは立川駅の近くですか?」
留学生「はい、そうです。」
※面接官は、本当は通勤について聞きたがっている
<面接官の質問の背景を理解している例>
面接官「今住んでいるのは立川駅の近くですか?」
留学生「はい、そうです。新宿駅までは、特別快速で30分以内で来ることができました。通勤にも問題ないと思います。」
このように、面接合格のためには、「日本語力」だけでなく「会話力」の向上も重要なのです。
3.まとめ
ここでご紹介した、面接での日本語に必要な5つのポイント「語彙力」「発音・イントネーション」「知っている語彙・表現で何とか伝える力」「論理的に話す力」「会話のキャッチボール力」。これらはすべて、入社して仕事をしていく上で必要な力でもあります。企業は面接で、話の内容だけでなく、このポイントも見ているのです。
ただ、この5点をすべて習得してから面接に臨むことはなかなか難しいですよね。とくに、日本語学校生や、母国大学から直接日本の大学院に進学している留学生には、時間があまりありません。
しかし、あきらめないでください。「一生懸命伝えようとする姿勢」から、企業はその留学生の「伸びしろ」を見出そうとしているのです。そして、留学生のみなさんが5つのポイントを伸ばしていこうと努力するモチベーションも、「一生懸命伝えようとする姿勢」から生まれてくるものです。ぜひ、「伝えること」に貪欲になってください。
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